笑門来福

失敗も困難も笑いとばしたい!

母の村


朝 母は突然自分の生まれた村のことを話し始めた。
山奥の小さな小さな集落だった。
林業が主たる仕事で、あとはわずかな田畑を耕して
生活していたのだった。
母は一人娘であり、母の父(祖父)は林業の事故で40代の若さで亡くなった。
残された母と祖母の苦労はいかばかりだったか。
気が強くなければ生きてこれなかったろう。
たくさん食べて、たくさん働くことが母の人生だった。
家族が増えても そんな生活は変わらなかった。
だから 今も夢の中で故郷の山に帰るのだ。
そして田を耕し、苗を植え、稲を育て、稲を刈った日々に戻るのだ。
それが 大変だったけれども 母が一番輝いていた日々だったのだ。


夏になれば、へろりんにも母の村の深い緑色の草々と
鋭くまっすぐな日差しがよみがえる。
庭を白く照らす日の中に 母の作るカレーの匂いが流れる。
夏しか着ない母の白い半袖のブラウスが眩い。


今年も夏が来た。 母に故郷のホタルを見せてあげられるか。
家の横の松の木の下を吹き抜ける風に母は会えるか。

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